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広島高等裁判所 平成9年(ネ)245号 判決 1998年4月17日

主文

一  原判決中、控訴人岩岡誠に関する部分を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人岩岡誠に対し、金六五万五一三四円及びこれに対する平成八年二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原判決中、控訴人桑元実男に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人桑元実男に対し、金五二万八八六一円及びこれに対する平成八年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人桑元実男のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人岩岡誠と被控訴人との間においては、被控訴人に生じた費用の二分の一と控訴人岩岡誠に生じた費用を全部被控訴人の負担とし、控訴人桑元実男と被控訴人との間においては、被控訴人に生じたその余の費用と控訴人桑元実男に生じた費用を二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人桑元実男の負担とする。

五  この判決は、二項及び三項の1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  控訴人岩岡誠

主文一、二項と同旨。

二  控訴人桑元実男

1  原判決中、控訴人桑元実男に関する部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人桑元実男に対し、金九一万八六〇五円及びこれに対する平成八年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決が「第二 事案の概要」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決の別紙計算書1の債務者欄に「桑元実男」とあるのを「主債務者珍坂政生・連帯保証人控訴人桑元」と、同2の債務者欄に「珍坂政生」とあるのを「主債務者珍坂政生・連帯保証人控訴人岩岡」とそれぞれ改め、原判決中に「原告岩岡」とあるのは「控訴人岩岡」と、「原告桑元」とあるのは「控訴人桑元」と、「被告会社」とあるのは「被控訴人」とそれぞれ読み替えるものとする。)。

一  原判決四頁一行目の「支払ったが、」の後に「右支払いは、いずれも被控訴人の従業員の詐欺によって締結させられた連帯保証契約によるもので、右契約が取り消されたことにより右支払いは不当利得となったとして(ただし、本件各請求はその一部である。)、あるいは、」を加え、同一、二行目の「法律に反する」を「法律違反がある」と、同二行目の「越える」を「超える」と、同五行目の「証拠によって認定した前提事実」を「当裁判所に顕著な事実」とそれぞれ改める。

二  同五頁四行目の「本件消費貸借契約」の後に「1」を、同一〇行目の「本件消費貸借契約」の後に「2」をそれぞれ加える。

三  同六頁二行目「(一)」を削除し、同三行目の「怠った」を「しなかった」と改め、同四行目から同五行目までを削除する。

四  同七頁一行目の「第九回」の前に「原審」を、同六行目の「金額」の後に「が原判決の別紙計算書1及び同2記載のとおりであること」をそれぞれ加え、同七行目の「二」を「四」と改め、同行の後に次のとおり加える。

1  本件連帯保証契約1及び本件連帯保証契約2の各締結の際、被控訴人の従業員が控訴人らに対し珍坂の借入状況や支払能力を誤信させるような欺罔行為を行ったどうか。

控訴人らは、本件各連帯保証契約は、被控訴人の従業員から、珍坂には返済能力があると欺罔され、その旨誤信して締結したものであるから、詐欺によりその意思表示を取り消し得ると主張し、被控訴人は、控訴人らの主張するような欺罔行為は存在しないから、詐欺による取消の意思表示の効果は発生しないと主張する。

五  同七頁八行目の冒頭の「1」を「2」と改める。

六  同九頁三行目から同末行までを次のとおり改める。

3 被控訴人が、珍坂に対し、本件消費貸借契約1を締結した際に交付した貸付契約説明書(甲四)及び償還表(甲五の1・2)及び本件消費貸借契約2を締結した際に交付した貸付契約説明書(甲六三)及び償還表(甲六四の1・2)は、貸企業の規制等に関する法律(以下「法」という。)一七条一項、同法施行規則(以下「規則」という。)一三条所定の書面(以下「法一七条一項所定の書面」という。)としての記載要件を満たしているか。

また、被控訴人が、本件連帯保証契約1を締結した際に控訴人桑元に交付した貸付契約説明書(甲四)及び償還表(甲五の1・2)及び本件連帯保証約2を締結した際に控訴人岩岡に交付した貸付契約説明書(甲六三)及び償還表(甲六四の1・2)は、それぞれ法一七条二項所定の書面としての記載要件を満たしているか。

(一)  被控訴人の主張

(1) 法一七条が、貸金業者に対して契約内容を明らかにする書面の交付義務を定めたのは、契約締結時に契約内容を書面に明確に記載し、その書面を交付するものとすることによって、債務者が契約内容を正確に知り得るようにし、後日の紛争発生を防止することにある。

(2) 被控訴人は、本件各消費貸借契約及び本件各連帯保証契約締結の際、珍坂及び控訴人らに貸付契約説明書(甲四、六三)及び償還表(甲五の1・2、六四の1・2)をそれぞれ交付したが、右各書面には「各回の返済期日及び返済金額」その他の契約内容が明確に記載されている。

もっとも、右償還表によれば、返済期日が休日(被控訴人の閉店日である日曜日及び祝日)となる場合があるが、返済期日が休日に当たるか否かは暦から容易に知り得ることであり、その場合は少なくとも前日までに返済すれば足りるから、返済期日が休日とされていても債務者の返済に支障をきたすことはない。また、返済期日が休日となる場合(返済期日以外の日に返済する場合も同様である。)は、返済額は償還表記載の額とは異なってくるが、その場合においても、利息は、貸付契約説明書に従って「残元本×〇・三九八×経過日数÷三六五」(甲四、六三の各二項参照)の計算により簡単に算出できるし、元金は初めから固定されているから、返済額を知るうえで何の障害もない。

(3) 被控訴人は、右各契約締結の際、控訴人らから金銭消費貸借契約証書(甲三、六二)及び事業者ローン申込書(甲六、六五)を受領したが、右各書面を受領した事実も貸付契約説明書に記載されている(甲四、六三の各五項参照)。

(4) したがって、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した右各貸付契約説明書及び償還表は法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面としての要件を満たしている。

(二)  控訴人らの主張

(1) 法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面の記載事項は、債務者が自己の債務の内容を正確に認識し、弁済計画の参考とし得る程度の一義的、具体的、明確なものでなければならず、そのためには、具体的な貸金額に基づく返済期間及び返済回数、各回の返済期日及び返済金額、弁済の充当関係などの記載が一義的かつ具体的で、明確である必要がある。

(2) しかし、本件消費貸借契約1及び本件連帯保証契約1の締結の際に被控訴人から珍坂及び控訴人桑元に交付された償還表(甲五の1・2)によると、返済期日は土曜日、日曜日、祝日などを全く考慮せずに全て毎月二五日とされているため、第一回の返済期日である平成四年一〇月二五日が日曜日となるほか、平成五年四月二五日、同年七月二五日、平成六年九月二五日、同年一二月二五日、平成七年六月二五日、平成八年二月二五日、同年八月二五日、平成九年五月二五日の各返済期日が日曜日(第一回を含めて合計九回)となり、平成五年九月二五日、同年一二月二五日、平成六年六月二五日、平成七年三月二五日、同年一一月二五日、平成八年五月二五日、平成九年一月二五日の各返済期日が土曜日(合計七回)となるなど、返済期日が銀行振込も持参払いも不可能な日に該当する場合の回数が全体の返済回数六〇回のうち実に一六回にも及んでおり、しかも、その際の返済金額も明確でない。

また、本件消費貸借契約2及び本件連帯保証契約2の締結の際に被控訴人から珍坂及び控訴人岩岡に交付された償還表(甲六四の1・2)も、同様に、返済期日は土曜日、日曜日、祝日などが全く考慮されずに全て毎月三日とされているため、毎月一月三日、五月三日、一一月三日の各返済期日が祝日(合計一五回)、平成五年一〇月三日、平成六年四月三日、同年七月三日、平成七年九月三日、平成八年三月三日、平成九年八月三日の各返済期日が日曜日(合計六回)となり、平成五年四月三日、同年七月三日、平成六年九月三日、同年一二月三日、平成七年六月三日、平成八年二月三日、同年八月三日の各返済期日が土曜日(合計七回)となるなど、返済期日が銀行振込も持参払いも不可能な日に該当する場合の回数が全体の返済回数六〇回のうち実に二八回にも及んでおり、しかも、その際の返済金額も明確でない。したがって、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した各貸付契約説明書及び償還表は、返済期日及び返済金額の記載が明確でなく、法一七条一項八号、同条二項、規則一三条一項一号チの定める「各回の返済期日及び返済金額」の記載があったとはいえない。

(3) また、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した貸付契約説明書(甲四、甲六三)には、法一七条一項八号、規則一三条一項一号ハ所定の「貸付けに際し貸金業者が受け取る書面の内容」が記載されていない。

(4) したがって、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した右貸付契約説明書及び償還表は、法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面としての記載要件を満たしていないことになる。

七  同一〇頁一行目の「3」を「4」と、同行の「貸金業法」を「法」と、同二行目の「同法施行規則」を「規則」とそれぞれ改め、同三行目の「交付したか。」の後に「また、右受取証書を交付した事実は内容証明郵便もしくは配達証明郵便により証明すべきか。」を加え、同四行目の「これを」を「、弁済を受ける都度、法一八条所定の受取証書として領収書兼利用明細書(甲九ないし四〇、四一ないし五九の各2、六八ないし九一、九二ないし一〇九の各2)を」と改める。

八  同一〇頁八行目の「4」を「5」と、同一〇行目の「5」を「6」と、同末行の「前記一3記載の時点で、珍坂は」を「珍坂が、平成四年一〇月二六日、本件消費貸借契約1について、平成六年四月四日、本件消費貸借契約2について、それぞれ」とそれぞれ改める。

九  同一一頁四行目の「6」を「7」と、同四、五行目の「貸金業法一三条所定の過剰貸付か」を「法一三条にいう過剰貸付であり、信義則上、被控訴人が控訴人らに請求し得る連帯保証債務額は珍坂の債務額の五〇パーセントに限定されるか」とそれぞれ改める。

一〇  同一一頁六行目から同一〇行目までを削除し、同一二頁一、二行目及び同六、七行目の各「貸金業法」をいずれも「法」と改める。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件連帯保証契約1及び本件連帯保証契約2の各締結の際の被控訴人の従業員の欺罔行為の有無)について

本件全証拠によるも、本件連帯保証契約1及び本件連帯保証契約2の各締結の際、被控訴人の従業員が、控訴人桑元あるいは控訴人岩岡に対し、珍坂の借入状況や支払能力を誤信させるような欺罔行為を行ったと認めることはできない。

したがって、本件各連帯保証契約にかかる控訴人らの意思表示が詐欺により取り消された旨の控訴人らの主張は理由がない。

二  争点2(本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2における返済方法及び期限の利益喪失約款の有無について)この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決一三頁三行目から同一四頁五行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三頁三行目の「(一)」を「1」と改め、同行目の「五の1・2、」の後に「六ないし八、」を加え、同一〇行目の「(二)」を「2」と改め、同行の「六四の1・2、」の後に「六五ないし六七、」を加える。

2  同一四頁四行目の「本件連帯保証契約1」を「本件連帯保証契約2」と改める。

三  争点3(法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面の交付の有無)について

この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決一四頁七行目から同一五頁九行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一四頁七行目の「原告らが」から同九行目の「不明であるが、」までを削除し、同九行目の「五の1・2、」の後に「六ないし八、」を加え、同一〇、一一行目の「本件連帯保証契約2」を「本件連帯保証契約1」と改める。

2  同一五頁三行目の「書面」を「貸付契約説明書(甲四)及び償還表(甲五の1・2の)」と改め、同四行目の「六四の1・2、」の後に「六五ないし六七、」をそれぞれ加え、同六行目の「桑元」を「控訴人岩岡」と、同行の「書面」を「貸付契約説明書(甲六三)及び償還表(甲六四の1・2)」とそれぞれ改め、同七行目の「そうすると」から同九行目の終わりまでを削除し、その後に行を改めて次のとおり加える。

ところで、法一七条一項は、貸金業者は、貸付けにかかる契約を締結したときは、遅滞なく、法一項各号に掲げる事項についてその契約内容を明らかにする書面(法一七条一項所定の書面)をその相手方に交付しなければならないものと定め、法一七条二項は、貸付けにかかる契約について保証契約を締結したときは、遅滞なく、法一項各号に掲げる事項及び当該保証契約の内容を明らかにする事項を記載した書面(法一七条二項所定の書面)を当該保証人に交付しなければならないものと定め、法四三条一項一号は、法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面を交付している者からの任意の支払いであることを利息制限法の制限額を超える利息又は損害金の支払いが有効な利息又は損害金の債務の弁済とみなされるための要件の一つとしているが(なお、法一八条所定の受取証書の交付については後記に判示するとおりである。)、法が貸金業者に対して右各書面の交付を義務づけた趣旨は、契約締結時に契約内容を書面に記載し、その書面を交付するものとすることにより債務者(あるいは保証人)が契約の内容を正確に知り得るようにして後日の紛争が生じることを防止することにある。そして、右各書面の交付を法四三条のみなし弁済の規定を適用する要件としたのは、債務者が利息を任意に支払う前提として、債務者において右契約の内容を正確に認識することを要するとしたことによるものである。

そのため、法は、法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面に「各回の返済期日及び返済金額」を記載するように求めているが(法一七条一項八号、規則一三条一項一号チ)、右事項は消費貸借契約あるいは保証契約の基本をなす重要な事項であり、これが不明確であれば、債務者(あるいは保証人)において、各回の返済期日を徒過したり、定められた返済金額に満たない返済をしたりするおそれがあり、ひいては、債務不履行責任を追及されるなどの不利益を受けることになるのであるから、その記載は一義的に明確でなければならない。

そこで、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した前記各貸付契約説明書及び償還表が、法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面としての記載要件を満たしているかどうかについて検討する。

被控訴人が本件消費貸借契約1及び本件連帯保証契約1の締結の際に珍坂及び控訴人桑元に交付した償還表(甲五の1・2)によると、その返済期日は毎月二五日とされており、第一回の返済期日である平成四年一〇月二五日のほか、平成五年四月二五日、同年七月二五日、平成六年九月二五日、同年一二月二五日、平成七年六月二五日、平成八年二月二五日、同年八月二五日、平成九年五月二五日の各返済期日はいずれも日曜日(合計九回)に該当し、また、被控訴人が本件消費貸借契約2及び本件連帯保証契約2の締結の際に珍坂及び控訴人岩岡に交付した償還表(甲六四の1・2)によると、その返済期日は毎月三日とされており、平成五年一一月三日、平成六年から平成九年までの毎年各一月三日、各五月三日、各一一月三日、平成一〇年一月三日の各返済期日が祝日(合計一五回)に、平成五年一〇月三日、平成六年四月三日、同年七月三日、平成七年九月三日、平成八年三月三日、平成九年八月三日の各返済期日が日曜日(合計六回)にそれぞれ該当するところ、証拠(甲三、六二)及び弁論の全趣旨によれば、本件各消費貸借契約における支払方法については、「債権者の本・支店に持参、または郵送・口座振込」(甲三、六二の各二項)と記載されているだけで、返済期日が休日である祝日あるいは日曜日に該当する場合の取扱いについては何らの記載もないことが認められる。

ところで、消費貸借契約における元利金等の返済期日が休日に該当する場合に、返済期日をその前日とするのか、その翌日とするのかは当該契約条項の解釈に委ねられるものであって、契約締結時の書面にその旨の記載がない場合に、当然にそのいずれかに定まるものではないから、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した右各貸付契約説明書及び償還表は、その書面の記載自体において、返済期日が休日に該当する場合の取扱いが不明確であり、法一七条一項八号、規則一三条一項一号チの「各回の返済期日及び返済金額」の記載としては不十分なものというべきである(なお、控訴人らは、返済期日が土曜日に該当する場合があることを問題とするが、証拠(甲三、六二)及び弁論の全趣旨によれば、土曜日は被控訴人の閉店日ではなく、持参払いも不可能ではなかったことが認められるから、返済期日が土曜日に該当する場合があったことからは、直ちに各回の返済期日及び返済金額の記載が不明確であったとまでいうことはできない。)。

もっとも、右の点に関し、被控訴人は、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した前記各貸付契約説明書及び償還表には、「各回の返済期日及び返済金額」その他の契約内容が明確に記載されており、右各書面に記載された返済期日が休日となる場合においても、返済期日が休日に当たるか否かは暦から容易に知り得ることであるから、債務者の返済に支障をきたすことはないし、利息も貸付契約説明書に従って簡単に算出できるから、債務者が返済額を知るうえで何の障害もないと主張する。

しかしながら、消費貸借契約における元利金等の返済期日が休日の場合に、返済期日をその前日とするのか、その翌日とするのかは当該契約条項の解釈に委ねられるものであることは前述したとおりであるうえ、被控訴人が返済期日が休日の場合に返済期日をその前日として扱うのであれば、債務者に履行遅滞の責を問われるなどの不測の損害を与えないためにも、契約締結時の書面にその旨を記載する必要性は極めて高いものというべきであり、しかも、これを明示するには、右書面に休日が返済期日の場合にはその前日又はその翌日をもって返済期日とする旨を記載するという容易な方法によって可能であることをも勘案すると、前記各書面に返済期日が休日の場合の取扱内容を記載していない以上、債務者において前日までに返済すべきことは常識で判断できるとの解釈を採ることはできない。

そうすると、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した各貸付契約説明書及び償還表は、その契約内容の重要な事項をなす「各回の返済期日及び返済金額」の記載に不備があり、法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面としての記載要件を欠くことになる。

したがって、珍坂及び控訴人らが被控訴人に支払った本件各消費貸借契約による利息又は損害金については、法四三条一項のみなし弁済の規定は適用されないというべきである。

四  争点4(法一八条所定の受取証書の交付の有無及びその証明方法)について

被控訴人及び控訴人らが法一八条所定の受取証書の交付の有無等を争うのは、本件各消費貸借契約及び本件各連帯保証契約に法四三条一項所定のみなし弁済の規定が適用されるかどうかをめぐるものであるところ、被控訴人が珍坂及び控訴人らに交付した貸付契約説明書及び償還表が法一七条一項所定の書面及び法一七条二項所定の書面としての記載要件を満たさず、右各契約による利息及び損害金について法四三条一項所定のみなし弁済の規定が適用されないことは前記三に判示したとおりである。

そうすると、被控訴人が、珍坂あるいは控訴人らから弁済を受ける都度、法一八条所定の受取証書を交付したかどうかについて別途に検討する必要はないことになるから、この点については判断しないこととする。

五  争点5(弁済充当)について

被控訴人が弁済を受けた年月日及び弁済金額が原判決の別紙計算書1及び同2記載のとおりであることは前記のとおりである。

ところで、証拠(控訴人桑元実男、同岩岡誠(いずれも原審))及び弁論の全趣旨によれば、珍坂あるいは控訴人らは、いずれも、本件各消費貸借契約及び本件各連帯保証契約の各債務の弁済をした際、その弁済金額を元本、利息及び損害金のいずれに幾ら充当するかについて特段の指示をしなかったことが認められる。

また、証拠(甲四一ないし五九の各2、九二ないし一〇九の各2、証人藤井明(原審))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、珍坂あるいは控訴人らから弁済があった際には、その都度、領収書兼利用明細書(甲九ないし四〇、四一ないし五九の各2、六八ないし九一、九二ないし一〇九の各2)を発行しており、右書面には、被控訴人が期限の利益を喪失したと主張する日(本件消費貸借契約1については平成四年一〇月二六日、本件消費貸借契約2については平成六年四月四日)を基準として、それ以前の期間については弁済金額を元本と利息に、それ以後は元本と損害金に充当する趣旨の記載がされていたこと、右記載に対し、珍坂あるいは控訴人らから異議が出されたことはないことは認められるものの、本件各消費貸借契約においては、利息及び損害金がいずれも同じ利率(年三九・八パーセント)であって、弁済金額が利息に充当されるか損害金に充当されるかは債務者や連帯保証人にとって必ずしも重要な事項ではなかったことが容易に推認されるから、珍坂あるいは控訴人らが被控訴人の前記のような領収書兼利用明細書の記載に異議を出されなかったということから、直ちに、珍坂あるいは控訴人らが被控訴人の指定充当(元本充当を含む。)を承諾していたものということはできない。

そうだとすれば、本件各消費貸借契約においては、前記のとおり、法四三条一項所定のみなし弁済の規定が適用されない以上、その充当は、民法の規定(民法四八九条ないし四九一条)に従って行われるべきことになる(ただし、利率は、利息制限法所定の範囲内である利息年一五パーセント、遅延損害金年三〇パーセントの各割合による。)。

六  争点6(珍坂が期限の利益を喪失した時期)について

この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決一九頁一一行目から同二〇頁九行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一九頁末行の冒頭に「1」を加え、同行の「原告らは」を「珍坂が、平成四年一〇月二六日、本件消費貸借契約1に基づいて支払うべき平成四年一〇月二五日の元利金の支払いをしなかったことは当事者間に争いがない(もっとも、右返済期日は日曜日であったから、前記三に判示した観点からも、右返済期日を徒過することが直ちに履行遅滞となるとはいえず、翌月曜日の同月二六日を徒過することによって初めて履行遅滞となると解するのが相当である。)。ところで、控訴人桑元は」と改める。

2  同二〇頁三行目の「前記」の前に「本件消費貸借契約1についての」を、同行の「明細書」の前に「利用」をそれぞれ加え、同六、七行目の「、七八ないし九一」を削除し、同九行目の「被告主張の年月日に、原告らは」を「珍坂及びその連帯保証人である控訴人桑元は、平成四年一〇月二七日以降、本件消費貸借契約1についての」と改め、その後に行を改めて次のとおり加える。

2  他方、本件消費貸借契約2については、法四三条のみなし弁済の規定が適用されない場合には、珍坂は、平成七年六月一九日までの間に元本充当分だけでも合計九一万一六一三円を支払っていることになるから、一度も債務の履行を遅滞しておらず(第五六回の返済期日である平成一〇年二月三日までの元本分に相当する。)、異議を留めて残債務全部を支払った平成八年二月二一日の時点においても債務の履行遅滞は生じていないから、珍坂及び控訴人岩岡は、期限の利益を喪失したとはいえない。

七  争点7(法一三条の過剰貸付の該当性等)について

この点に関する当裁判所の判断は、原判決二二頁八行目の「貸金業法」を「法」と、同九行目の「できない。」を「できないから、本件各消費貸借契約が法一三条所定の過剰貸付であることを前提として、被控訴人が連帯保証人である控訴人らに請求し得る連帯保証債務額が信義則上債務額の五〇パーセントに限定されるべきであるとの控訴人らの主張は採用できない。」とそれぞれ改めるほかは、原判決二〇頁末行から同二二頁九行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。

八  争点8(過払いの有無)について

以上に判示したところによれば、珍坂及び控訴人桑元が本件連帯保証契約1の連帯保証債務の履行として支払った金員の本件消費貸借契約1の債務への充当関係は本判決の別紙充当計算表1記載のとおりであって、同控訴人は、平成八年一二月二〇日に支払った八四万八九八一円のうちの五二万八八六一円を過払いしていることになる。

また、珍坂及び控訴人岩岡が本件連帯保証契約2の連帯保証債務の履行として支払った金員の本件消費貸借契約2の債務への充当関係は本判決の別紙充当計算表2記載のとおりであって、同控訴人は、平成八年二月二一日に支払った七二万六〇二八円のうちの六六万一一二〇円を過払いしていることになる(控訴人岩岡の本件請求額六五万五一三四円はその範囲内である。)。

第四  結論

以上によれば、控訴人岩岡の請求は理由があるからこれを全部認容すべきであり、控訴人桑元の請求は本判決主文三項の1記載の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決は右と異なる限度で失当であって、控訴人岩岡の控訴は全部理由があるから、原判決中、同控訴人に関する部分を取り消し、本判決主文二項記載のとおりの支払いを命ずることとし、控訴人桑元の控訴は一部理由があるから、原判決中、同控訴人に関する部分を本判決主文三項のとおり変更することとする。

別紙

充当計算表1

平成4年9月30日の貸付金150万円

債務者・珍坂政生 連帯保証人・控訴人桑元実男

<省略>

凡例 1 金額の単位は円である。

2 期間欄は、利息又は遅延損害金を生じる日数である。

3 利息等充当額欄は、利息又は遅延損害金の金額で、各弁済日における充当額である(1円未満切捨)。

4 利率は、利息制限法の適用により、平成4年10月26日までは年15パーセント、同月27日以降は年30パーセント(1年を365日とする日割計算)である。

5 平成4年10月28日の期間欄、利息等充当額欄及び元本充当額欄の( )内は、平成4年10月26日の欄と同月28日の欄の合計値である。

別紙

充当計算表2

平成5年6月4日の貸付金100万円

債務者・珍坂政生 連帯保証人・控訴人岩岡誠

<省略>

凡例 1 金額の単位は円である。

2 期間欄は、利息又は遅延損害金を生じる日数である。

3 利息等充当額欄は、利息又は遅延損害金の金額で、各弁済日における充当額である(1円未満切捨)。

4 利率は、利息制限法の適用により、全期間にわたり、年15パーセント1年を365日とする日割計算)である。

5 平成7年3月31日、同年5月2日及び同年6月19日の各期間欄、利息等充当額欄及び元本充当額欄の( )内はそれぞれの日の合計値である。

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